PERF04-BP05 パフォーマンスを高めるネットワークプロトコルを選択する
ワークロードのパフォーマンスに対する影響に基づいて、システムとネットワーク間における通信のためのプロトコルを決定します。
スループットの達成には、レイテンシーと帯域幅間の関係が関与します。ファイル転送で Transmission Control Protocol (TCP) を使用している場合は、レイテンシーが高くなると全体的なスループットを低下させる可能性が高くなります。これを解決するアプローチには、TCP チューニングと最適化された転送プロトコルを使うものもありますが、1 つの解決策として User Datagram Protocol (UDP) を使用する方法があります。
一般的なアンチパターン:
-
パフォーマンス要件に関係なく、すべてのワークロードに TCP を使用する。
このベストプラクティスを活用する利点: ユーザーとワークロードコンポーネント間の通信に適切なプロトコルが使用されていることを確認すると、アプリケーションのユーザーエクスペリエンスが全体的に向上します。例えば、コネクションレス型 UDP では高速通信が可能ですが、再送信や高い信頼性は提供されません。TCP はフル機能のプロトコルですが、パケットの処理にはより大きなオーバーヘッドが必要です。
このベストプラクティスを活用しない場合のリスクレベル: 中
実装のガイダンス
アプリケーションに合わせて異なるプロトコルを選択する能力があり、この分野の専門知識を持っている場合は、異なるプロトコルを使用してアプリケーションとエンドユーザーエクスペリエンスを最適化してください。このアプローチは非常に難しいため、先に他の方法でアプリケーションを最適化したことがある場合にのみ試してください。
レイテンシーとスループットの要件を理解し、パフォーマンスを最適化するネットワークプロトコルを選択することが、ワークロードのパフォーマンスを向上するうえで重要となる考慮事項です。
TCP の使用を検討するべきケース
TCP は信頼性に優れたデータ配信を提供し、データの信頼性と確実な配信が重要となるワークロードのコンポーネント間の通信に利用できます。多くのウェブベースのアプリケーションは、HTTP や HTTPS などの TCP ベースのプロトコルを使用して TCP ソケットを開き、アプリケーションコンポーネント間の通信を行っています。TCP はアプリケーションコンポーネント間のシンプルで信頼性の高い転送メカニズムであるため、メールやファイルのデータ転送などのアプリケーションでも一般的に TCP が利用されます。TCP で TLS を使用すると通信のオーバーヘッドが増加し、レイテンシーが増加して、スループットが低下する可能性がありますが、セキュリティ上のメリットがあります。このオーバーヘッドは主にハンドシェイクプロセスの追加オーバーヘッドにより発生し、完了するまでに数回のラウンドトリップが必要になる場合があります。ハンドシェイクが完了すると、データの暗号化と復号化のオーバーヘッドは比較的少なくなります。
UDP の使用を検討するべきケース
UDP はコネクションレス型のプロトコルであるため、ログ、モニタリング、VoIP データなどの、高速かつ効率的な転送が必要なアプリケーションに適しています。また、多数のクライアントからの小型のクエリに対応するワークロードのコンポーネントがある場合は、ワークロードの最適なパフォーマンスを確保するために UDP の使用を検討します。UDP では、Datagram Transport Layer Security (DTLS) が Transport Layer Security (TLS) に相当します。UDP で DTLS を使用する場合、ハンドシェイクプロセスは簡素化され、オーバーヘッドはデータの暗号化と復号化から発生します。また、DTLS には、セキュリティパラメータを提示し、改ざんを検出するための追加フィールドが含まれているため、UDP パケットに少量のオーバーヘッドが追加されます。
SRD の使用を検討するべきケース
Scalable Reliable Datagram (SRD) は、複数のパス間でトラフィックの負荷分散を行い、パケットドロップやリンク障害から迅速に回復できる機能を備えており、高スループットのワークロード向けに最適化されたネットワークトランスポートプロトコルです。そのため、SRD は、コンピューティングノード間で高スループットと低レイテンシー通信を必要とするハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) ワークロードに最適です。ノード間で大量のデータ転送を伴うシミュレーション、モデリング、データ分析などの並列処理タスクなどで利用される場合があります。
実装手順
-
AWS Global Accelerator
および AWS Transfer Family サービスを使用して、オンラインファイル転送アプリケーションのスループットを改善します。AWS Global Accelerator サービスを使用すると、クライアントデバイスと AWS 上のワークロード間のレイテンシーが低減されます。AWS Transfer Family では、Secure Shell File Transfer Protocol (SFTP) と File Transfer Protocol over SSL (FTPS) などの TCP ベースのプロトコルを使用して、AWS ストレージサービスへのファイル転送を安全にスケールおよび管理できます。 -
ワークロードコンポーネント間の通信に TCP が適切かどうかを判断するには、ネットワークレイテンシーに注目します。クライアントアプリケーションとサーバー間のネットワークレイテンシーが高い場合、3 方向ハンドシェイクに時間がかかり、アプリケーションの応答性に影響を与える可能性があります。最初の 1 バイトを受信するまでの時間 (TTFB) やラウンドトリップタイム (RTT) などのメトリクスを使用すると、ネットワークレイテンシーを測定できます。ワークロードがユーザーに動的コンテンツを提供する場合、Amazon CloudFront
の使用を検討します。これにより、動的コンテンツの各オリジンへの永続的な接続が確立され、各クライアントリクエストの速度を低下させる接続設定時間が必要なくなります。 -
TCP や UDP で TLS を使用すると、暗号化と復号化の影響により、レイテンシーが増大し、ワークロードのスループットが低下する可能性があります。この場合、Elastic Load Balancing
で SSL/TLS オフロードを行い、バックエンドインスタンスの代わりにロードバランサーで SSL/TLS 暗号化および復号化プロセスの処理を行ってワークロードのパフォーマンスを向上させることを検討します。これは、バックエンドインスタンスの CPU 使用率の低減、パフォーマンスの向上、キャパシティ増大につながります。 -
認証および承認、ロギング、DNS、IoT、ストリーミングメディアなど UDP プロトコルを使用するサービスをデプロイする場合、Network Load Balancer (NLB)
を使用します。ワークロードのパフォーマンスと信頼性が向上します。NLB は着信 UDP トラフィックを複数のターゲットに分散するため、ワークロードの水平方向のスケーリング、キャパシティの増大、単一のターゲットのオーバーヘッドの低減につながります。 -
ハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) ワークロードでは、Elastic Network Adapter (ENA) Express
機能を検討してください。SRD プロトコルを使用して、EC2 インスタンス間のネットワークトラフィックに対してより高いシングルフロー帯域幅 (25 Gbps) と低いテールレイテンシー (99.9 パーセンタイル) を提供し、ネットワークパフォーマンスを改善します。 -
Application Load Balancer (ALB) を使用して、ワークロードコンポーネント間または gRPC クライアントとサービス間の gRPC (Remote Procedure Calls) トラフィックをルーティングし、ロードバランスします。。gRPC は TCP ベースの HTTP/2 プロトコルをトランスポートに使用しており、ネットワークフットプリントの軽量化、圧縮、効率的なバイナリ形式のシリアル化、多言語サポート、双方向ストリーミングなどのパフォーマンス上の利点が得られます。
リソース
関連ドキュメント:
関連動画:
関連する例: